令和5年 「初釜」報告
今年は異例の猛暑が長く続いております。
昨年の夏の朝茶報告を終えた途端。あら、あら。色々とブログも書きたいと頭の中では思いながら、日々は矢が飛ぶ様に過ぎ・・・一年経ってしましました。
書きたいことは山ほどあるのに、なぁ…
さぁて、言い訳はせず、2023年度、1月28日(土)・29日(日)に開催した初釜茶事の報告をいたしましょう。
玄関の短冊は、尋牛斎筆のおめでたい言葉「瑞日祥雲」。
寄付は、扇面「四海同風」。「高砂」の一節に『四海波静かにて〜』と祝儀に謡う謡曲があります。日本は全ての海「四海」に囲まれた国。なので「ここ 全てに同じ幸せな風が吹いている」という気持ちを込めました。
日々の手入れが重要な露地。
本席の掛物は、表千家九代 了々斎筆「一箭中紅心」。十三代即中斎宗匠の箱書があります。
「一箭中紅心 (いっせんこうしんにあたる)」
さて、いったいどんな意味なのでしょう?
「一箭」とは、「一本の矢」という意味。
「中」は「中(あ)たる」。当たるという意味。
「紅心」は「的(まと)」。的の中心部の赤い部分、大きな意味で「心」のことを意味していると言えます。
そう、簡単にいうと「的の中心を射抜く」。
「物事の一番重要な部分に取り組め」
「色々あるなかで本質的な部分を捉えよ」と平たく言えますが、
まあ。禅語ですから、
「自分の心を射抜け」というのが本意ではないでしょうか。
実は、今年はこの言葉が物凄く、皆(社中)の心を射抜くこととなりました。
そして、この夏の私の還暦祝いの茶事へ続いていくのですが。その話はまた後ほど。
小岱の茶入れ。 茶杓は、宗完の花押「丹頂」。
表完作、紹鴎棚。 阿山作、兎の水指。 而妙斎箱、住吉蒔絵の棗。
これは広間席の床の間に飾った榊原勇一さん作の香合、十二年前の作品です。
本席で初お目見えしたのは、捻梅の香合。紙釜敷を使いました。
今年も「続き薄茶」のスタイルです。
炭点前の後は茶懐石。
[ 初釜献立 ]
蒸し寿司
鰤(ブリ)山椒焼・慈姑・平目昆布締め数の子巻き・黒豆松葉・漬物
聖護院大根・松蓮根・車海老・菜の花と赤貝の茄子酢味噌和え
煮物椀 雲丹 帆立 蟹真蒸 鈴菜 京人参 柚子
小吸い物 松の実 檸檬
八寸 唐墨 大根切り重ね 花百合根
お湯
この、百合根を花の形に削るのは、職人技! 唐墨は社中料理長の手作り。
初釜では、今年の抱負を書いていただいています。
先ほど、「一箭中紅心 (いっせんこうしんにあたる)」という言葉が社中皆の心に矢を射ったと書きましたが、茶事後のお礼の手紙をひとつ紹介します。
『(この掛物の言葉に)とても感銘を受け、また自分自身を顧みる機会をいただきました。お掛物を背に、始まる、お炭のお点前。幾重にもなった紙釜敷、羽箒、炭台の奉書紙、真っ白なアイテムで構成される演出に、最後に登場する捻り梅の香合。意匠のみで色味は抑えられているものの、まさに真っ白な世界に現れた紅い点のようで、とても感激いたしました。
高森先生の室礼に、時代を超える了々斎の書が見事に融合したように思えました。この言葉の持つ意味が立体的に起き上がってくるかのようでした。
表千家の歴代の宗匠の方々も、一席一席に狙いを定め、こだわりにこだわりながら、前に進んでこられたからこそ 今日の茶道があると思うと、深い尊敬を感謝、そして今を生きることへの勇気を感じてやみません。
ここ三年、私たちは足踏みをしている様に見えながらも、すでに目の前にあるもの、たくさんの当たり前ではない日常の価値とありがたみを感じながら過ごして来ました。ある意味、強さを養ってきた時期だったのかもしれません。あの時からもうすぐ三年。また大きく時流が変わりつつあると感じます。
ただ単に以前に戻るのではなく、これまで培った強さとともに、前に、己の目指すところにこだわりながら…。そんなことを「一箭中紅心」という言葉から感じずにはいられませんでした。
(中略)この度のお茶事は、茶道のみならず、私自身の今後の行く末を考えるとても思い出深いものとなりました。茶道で頂いたたくさんの教えを、私も少しでもみなさんに循環できるようにと思いますし、また私がこの世で担当している分野においても還元していきたく思います。』
素敵なお手紙なので皆さんの代表で記載させて戴きます。そして、
このお手紙を書いてくれた彼女が中心となり、この夏、私の還暦のお茶事を開くとを企画し、7月23日に開催してくれました。
こんなに嬉しいことはありません。
さて、その報告はもう少々お待ちくださいませ。