令和2年「秋の茶事」報告
我が家の遅咲きの梅の花が満開となりました。
『梅一輪 一輪ほどの暖かさ』
この服部嵐雪(らんせつ)さんの句は、梅が一輪、また一輪と咲く。その一輪くらいずつ暖かくなって春が本格化する。という「早春」の句としての読み方と、「梅が一輪だけ咲いた。」まだ寒い冬のさなかだが、一輪のその梅花くらいの暖かさを感じる。という「寒梅」の「一輪くらいのわずかな暖かさ」という二つの読み方があるのだと、坪内稔典さんの文章で知りました。
さて、緊急事態宣言の最中ではありましたが、1月最終週の週末に、令和三年の初釜を無事に納めました。今年も本当に素晴らしい茶事でした。
しかし・・その報告をする前に、昨年の秋の茶事の報告をしなければいけませんね。昨年は 4・5月は教室をお休みし、7月頃までは充分な稽古が出来なかったので、例年最終週末に開催する夏の「朝茶」を延期し、「秋の茶事」として9月末に二日間、開催しました。
秋も「名月」「菊」「秋草」「紅葉」など、茶事を開きたくなるお題は沢山あります。気候も良いですしね。
実は、私が初めて開いた「茶事」も、9月でした。
平成13年、2001年、9月19日水曜日。20年前のことです。
その頃はまだ、お道具をほとんど持っていませんでした。その頃の会記を見ると、満足でない道具の中で、でも何とか工夫をしている様子が伝わってきて、懐かしさと いじらしさが募ります。
毎年、茶事の度に少しずつ新しいお道具をお披露目し、社中と共に楽しみながらコツコツと経験を積んできました。
さてさて、話は尽きないので去年の秋の茶事報告に戻りましょう。(笑)
〈 寄付き 〉
「引く人も引かれるひとも水の泡 浮世なりけり淀の川舟」
黄梅院の大綱和尚が詠われたものを、堀内宗心宗匠が曳舟の絵とともに書かれた扇面。
煙草盆は奈良漆器、火入れは青楽木瓜、灰吹は胡麻竹。
〈 初座 (炭点前) 〉
即中斎一行「清風動脩竹(せいふう しゅうちくをうごかす)」
「脩竹」とは細長い竹のこと。その竹の葉が、清らかな さわやかな風に吹かれて、さらさらと葉鳴りの音を立てている。
一陣の清風が、涼しげな竹林の間を吹き抜けることによって、なお一層、さわやかな境地を表現しています。
大自然の中にいると、特に音に敏感になります。(人間である私が動物に戻る 好きな時間です)
川のせせらぎ、木と木のなかを風が抜け 木の葉がこすれそよぐ音、滝が流れ落ちる音、鳥の綺麗な声や、獣の鳴き声も・・
人が一緒にいる時や、日の明るい時は気にはなりませんが、日が暮れ薄暗くなった道を一人で歩く時は、聞こえるはずの無い音さえ・・とても不安な心になります。
多くの「音」は、片方だけでは生まれません。
白隠慧鶴(はくいんえかく)禅師の創案による「隻手音声(せきしゅのおんじょう)」の公案もあります。
「両手をたたくと音が出るけど、片手で鳴る音はどんな音?」このトンチとも思える問いの意味に、耳を傾けていただきたいと思います。
炭斗 菜籠
香合 縞柿「砧」
砧(きぬた)とは、布を柔らかくしたり艶を出す為に用いる木槌のことです。
能では世阿弥作四番目物で、もの悲しい能があります。能の師匠、東川先生にお聞きした所、「砧」は大奥物で滅多に舞えない非常〜に難しい能だそうです。
・茶懐石は、9月初旬から私とKa(サーダ)さんで献立を練り、試作を重ねました。サーダさんとは、蓮心会の料理長。日本男子です(笑)。
この時勢から取り分けをせず、「吸い物八寸」の手法を参考にそれぞれ一皿におかずを盛り付けました。
・蓮の実と蓮根で炊いた「蓮御飯」炊き上がりに三ツ葉を混ぜて。
・骨までしっかり味の染みた「子持ち鮎」
・手間隙かけた「赤芋の栂尾煮」
・揚げてから冷水で油抜きした「揚げ茄子の含め煮」
・Kotさんが職人のように隠し包丁を入れ、サーダさんが何度も味を付け直してくれた「冬瓜」
・サーダさんが海老の泣き声に(可愛そう…)と呟きながら茹でていた「車海老」
・私がこだわった為にMukさんがシメジを全て半分に割いてくれた「しめじと菊葉と春菊の和物」
・季節の「紅葉麩🍁」
・漬物は、Maさんから頂いたとても美味しい「奈良漬け」と「大根」。
そして、懐石のメインディッシュである煮物碗は「萩真薯」。
Akさんが『もう明日手が上がらないっスー💦』とプチヤンキーになる程何時間も練ってくれました。
細く切った木耳を混ぜ込み、上に銀杏と茹でた小豆で萩華の様に飾りました。炙った舞茸と、鶴菜、丸い青柚を添えて。
↑残念ながら、何故か舞茸と鶴菜が上に乗ってしまった写真しかありませんが…。
↓仕込み中の皆さんと、
↓エプロン姿がキマりのサーダさん
↑「先生」と呼ばれていて、私へも「そうだね~」と、タメ語でした💧笑
・八寸は和歌山から届いた「鱧」を贅沢に白焼きに。私にしては少し甘めにした「茗荷」とともに。
お料理屋さんのものとは、一味違う、家庭的な味付けが新鮮だったと思います。手間隙を惜しみなく隅々まで妥協なくかける茶懐石。
しみじみ、心に染みる美味しさではなかったでしょうか…。
そして〈 中立・後座 〉へと 移ります。
・土曜のお花は、「秋明菊」。
これは通常良くあるのものとは違い、かなり小ぶりな品種です。
・日曜は、「ホトトギス」の白。↓
両日、「金華山ススキ」と共に、「鮎篭」へ。先程の懐石の鮎と繋がりますね。
「金華山とは、中国の?」と店の人と話していましたが、後から親友のSakさんが、『宮城にも岐阜県にも金華山はあるので、きっと岐阜の金華山だよ』と調べてくれました。
〈広間の室礼〉
・風炉先「松葉紋金箔金雲」
・釜 宗心花押「松竹文真形」
・竹台子の一つ飾りに細水指は陽炎炎の「糸瓜耳付」
・茶入 如心斎好「阿古陀」
・茶杓「銘 山花」宗完作
・濃茶茶碗は、一客一碗で五つ。続き薄では、同じお茶碗がわたる様に半東さんが心してくれました。
・土曜のみ( 7名の為)薄茶碗「杣山(そまやま)焼き」。南口閑粋(みなみぐちかんすい)」作の「秋草と、菊と鶴」の二つが、初お目見え。
・茶器 加賀蒔絵「むさし野」
・建水「焼〆鉄黒様」
・蓋置「武蔵野」乾山写
・御濃茶「猶有斎好 特別引上 楽寿の昔」柳櫻園詰
・御菓子器「真塗縁高」
・御菓子「菊きんとん」鶴谷八幡製
・干菓子は紅葉漆絵の「青漆爪紅四方盆」に末富さんの琥珀合わせ「月に兎」と打物「菊」二色
・薄茶「柏寿の白」祇園辻利詰
・煙草盆は一閑作「溜 鱗透」
・煙草入「寄竹」
・火入「祥瑞」灰吹 染竹
・きせる「如心斎好」
↓前日の庭
↓庭師としてもプロ級のサーダさん。大活躍です💪
土曜は雨に弄ばれましたが、それもまた勉強となり、新たな気づきも沢山あり収穫でした。
今回は、今年の初釜の成果をとても感じました。今後もさらなる学びの為に皆さんに半東参加をお願いしたいと思います。
何処に旅行へ行くより楽しいので、是非、有給休暇をご活用ください。
特に今の情勢では、海外に行くことも叶いませんので、この時期を「チャンス」と切り替え、この「日本」に、留学してください!
参加した方は思い出し、参加出来なかった方は想像して楽しんでください。
次回に初釜の報告をしますね。