令和6年 京都池坊中央研修学院 総合特別科 生花教室、3年次 2期 7月の報告
令和6年、京都池坊中央研修学院 総合特別科 生花教室 3年次 2期 7月の報告です。今期は 清祥会支部が主管する池坊巡回講座と日程が重なったので、初日から参加することができず、3日目からの授業でした。
初日は、初伝七種傳のひとつ「牽牛花(けんぎゅうか)」朝顔のことです。
“当意即妙の代表” と云われています。蔓物なので、垂れる性質を生かして向掛、横掛、釣船、二重切の上の重などにいけます。私は船の花器へ生けました。


蕾は真か副に使うのがよい。
古く万葉の時代には桔梗のことを朝顔といっていて、平安時代の頃から今の朝顔となったそうです。
花は早朝に咲いて午後にはしぼむ 命の短さを思うと はかないともみられますが、朝な朝なに花を咲きかえる新鮮な輝きをめでて 格別の祝儀席には生けないそうですが、普通の祝儀花として生けて良いとされています。
『朝な朝なに咲きかえて…』とは、浮き世の移り変わりの無情感をも感じますが、「開花より蕾」 “今日より明日” という人の想いが素敵ですね。
牽牛花の蔓は “左巻き”と、知っていますか? 面白いですね。蔓ものの植物は自身で自立できないので、何かに巻きついて成長します。その性状を生かして、竹の小枝か萩の枯れ枝などに 左巻きに纏(まと)いつけて扱います。
開花一輪、翌朝咲くべき蕾一輪を見せていけるのがよいとされ、開花を「躰」の部分に、蕾を適当に配します。
『前日に生けて夕方戸外で夜露に当てておくと、翌朝は葉も花を上向いて自然の理に合った出生通りに巻き伸びて、生き生きとした花の姿になっているので早朝 床の間に戻し入れて飾ると良い。』はい。本当にそうなのです!


茶道の朝茶事で朝顔を生けることはあっても、生花をで生けるのは初めて!憧れていたので 学べて嬉しかったです。朝茶の時の花にもするのですが、花入れに冷水を少し注いでおくと長持ちします。
2日目は「七夕七種」。
旧暦の七月七日の七夕の一日だけ許される変化形の生花です。(建前ではね^^)
奈良時代、万葉集で山上憶良が詠んだ和歌に『秋の野に 咲きたる花を指折り かき数振れば 七種の花』
『萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝顔の花』(前記の通り朝顔は桔梗)
やはり、この七種が理想です。穂がでたススキを「尾花(おばな)」と言い、七夕七種の生花にはこの「尾花」を生けます。

生け方は、真に「尾花」二本。葉を前後に振り出します。「萩」は後ろ、陽方の副に。この二つは垂れものです。通用(つうよう)ものでもあり、本数に規制はありません。
「女郎花」「藤袴」は似たような植物ですが 生きている世界で高さが少し違うので、それを表現するように中段に。女郎花はとても背が高い植物です。
躰は「撫子」か「桔梗」。
「朝顔」「葛」は、蔓もの。朝顔を使う場合は萩に纏わせたり、葛の先端を女郎花にかけたりして使うことが多いです。
置きいけに限り、花形は行。基本的には通常とら変わりなく、七種それぞれの風情の特徴を生かして、秋の気分をあらわし、趣き豊かにまとめます。
それにしても、京都で学ぶ花材(地下の花市さんが仕入れしてくださる)は、東京とは比べられぬほど全てが大ぶりで野趣味溢れていて、それらの植物を手に取り剪定しているだけで、大変勉強になります。
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茶道や華道、能などを学んでいると、世界の中で、日本は特殊な芸術のセンスを持っているな、と つくづく感じます。
『日本の美のルーツは四つある』と、日本の免疫学者、東京大学名誉教授の多田富雄さんが書いておられると先生から教わりましたので、自分でも調べてみました。
まず一つには 『アミニズムの文化』
『自然崇拝、自然信仰である。日本では古来より絶対的な神は持たず、自然の中に無数の神を見つけ、それを敬ってきた。ゆえに日本では一神教は育たず、宗教対立で戦争を招くことはなかった。』
「八尾万(やおろうず)」の神を敬う多神教。
自然に思いをいたす、「自然崇拝・自然信仰」は、池坊の教えと同じですね。
二つ目は『豊かな象徴力』
『俳句や和歌は事実の記載ではなく、たった一言で世界を表現する。日本の芸術はこの象徴力のおかげで世界が尊敬する美を作り出した。能・歌舞伎や茶道・華道に至るまで豊な象徴力に支えられている。』
“リアリズムではない魅力” 。説明するのではなく表現する。他にも 俳句、和歌、狂言、歌舞伎 など。深い想像力が必要ですね。俳句も感情よりも季語が大切なところが面白いです。
西洋の芸術の成り立ちと違うな、と思うところは、日本では身分の高い方も芸を人生の傍において “道”として自分を高めていくために学んでいたところです。立花も天皇など地位が高い立場の方が池坊の坊主に習い立てていて、立花会点付けの会に天皇も参加し学んでいました。西洋で「立ち場が高い方が位の低い人から学んでいた」なんて話、聞いたことがありません。
やがて、力を持ってきた商人が立花(りっか)を略した生花(しょうか)を 床の間に生けられるようになります。
生花は立花のように華やかな姿ではありませんが、“数少なきはかえって趣き深し” と逆転の発想で、少ない種類の花でも品格があり、床の間に飾っても引けをとらない「型の美」を作り出したのです。
三つ目は『「あわれ」という美学』
『滅びゆくものに対する共感や弱者への慈悲など あわれなものへの思いが日本の美の要素になっている。強さ・偉大さ・権威などを価値とする外国とは異なる日本独自の価値観である。それは日本人の心の優しさ、美しさ、デリケートさの根源である。』
滅びゆく者への共感、人の世の無常、不完全な美。完全なものは壊れていく「もののあわれ」。思うようにならないものを笑ってしまう「おかしみ」…
日本は負けている方を応援する美学なのです。室町時代から戦国の影響で民衆が虐げられてきました。それが「人の世の無常」「もののあわれ」「不完全な美」の美学を生んだのです。私が能を学んで最初に知り、感動したのは「弱者が主人公」ということでした。
また桜の花びらが散るゆく姿、紅葉し朽ちていく美しさ、冬に葉が散る寂しさに美を感じるのは、実は日本独特の感性なのです。
そして、四つ目はそれらを技術的に包み込む『匠の技』
『美術はもちろん、詩歌や芸能でも細部まで突き詰める技の表現がある。「型」や「間」を重んじる独特の美学である。それはまた日本の優れた工業技術のルーツでもある。』
上記三つの日本の美学の特徴を、美術はもちろん、詩歌や芸能までも、細部まで突き詰め、技術的に包み表現する匠の技があります。
「型」「間」を重んじる独特の美学、優れた技術のルーツを日本人は持っています。
この四つの特徴が、日本の美しさを世界でも独自なものにしていてきたし、日本人の行動の規範にもなってきた。と書いていました。深くうなずけますね。
授業で先生が『キリスト教は「人は罪深いもの」という教えなので、教会で懺悔をしますが、日本人は懺悔しない。「それで良いんじゃない?」と肯定して生きていく。非常に変わっているよね。』と、笑っておっしゃっていましたが、本当ですね。こうしたお話を聞くとその歴史の違いが良くわかります。
最終日は新風体か三種生けかの自由選択でした。今回は「唐糸草(からいとそう)」を主役に生かしたかったので、同じ小さなピンク点が爽やかな花と合わせて ガラスの沓形花器に、新風体を生けました。二つともフワフワした花材(花の名前思いだし次第記入します)なので、黒い葉で作品の空気感をひき締めました。

「生花 新風体」は 専永宗匠より 1977(昭和32)年、① 生活環境の変化、② 花材の多様性、③ 自由と多様化を求める心 から発表されました。
発表される前までは、「現代生花・三種生け」と呼ばれていたそうです。
生花三種生けのスタートは、『違いのあるものを取り合わせる・それぞれが違うものの出会いの対比』から。
古くから伝承されているものも大切に伝承しながら、それと共に、時代の変化に適応した新たな風を入れて伝えられてゆくこと。伝統文化を学んでいると決して古いものを学んでいるのではなく、「いつも、“今” を学んでいる」という感覚を持ちます。“伝統とは今の積み重ね” なのだと実感します。
「型」はあっても命ある草木は一つとして同じ枝葉はなく、大切なのは個性を受け入れて 生かすことです。
『和をもって 尊しと成す』。聖徳太子が云われたと伝えられているこの言葉、実は『個性を持つそれぞれが、ぶつかり合える状況が発展的なのだ』という当時としてはかなり “新しい考え方” なのだそうです。素晴らしい!
実技に入る前に、先生から『新風体は、正風体からの制約が解かれて、色々自由が許されているけど、「今の私たちがどう感じるか」「違和感が無いようにすること」が大事』、また『挑戦しすぎると、崖から落ちるからあまり変わったことはしないほうが良い。』と、教わりました。
先生、私は「崖から落ちるかも… ってことに気づかず、気がついたら超えちゃってた(汗;)」ってタイプですが、大丈夫でしょうか… 笑
池坊の学びについて書きたいことは、まだまだ沢山ありますが、今回はここまでにします。
次回 3期は 10月中旬。11月は京都七夕華展があり、なんと私は生花教室の選抜席に選ばれました!古典立花の教室でも選抜席に出瓶させて頂きましたが、大変名誉なことでございます。はい、頑張ります。
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