蓮心 表千家茶道教室 池坊いけばな華道教室

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令和4年 初釜報告

2022年3月7日 Category: blog

新型コロナウィルスの感染が流行しはじめてから、丸2年が経ちました。終息にはまだもう少しかかりそうですね。

3年目、令和4年の今年も感染症対策をしながら、初釜を無事に開催することができました。今日はその報告をしたいと思います。

初釜当日の外腰掛け。苔も年々美しく育っています。

さて、皆さんは茶事を開くにあたって、亭主は最初にどんな仕事をすると思いますか?

茶事はいろいろな、目的があります。

茶事を開く開催者のことを「亭主」と云います。

 

亭主である私は、開催する茶事の目的に合わせて「テーマ」を決めて、道具組を考えることからはじめます。とは言っても道具はたくさんありますよね。

私の場合、「掛物を何にするか」、から考え始めることが多いです。

 

本席の掛物、寄付きの掛物、玄関の色紙や短冊・・など イメージを膨らまして空想していくうちに、少しずつ全体のストーリーができあがっていきます。

今回のテーマは一年の始まりを寿ぐ「初釜」。

今年もコロナ禍で参加できない生徒もいましたので、掛物については その生徒たちのことを心に思いを巡らせつつ悩んでいました。

 

清んだ川の流れは絶え間なくなく流れている」ことを、禅語で「清流間断無(せいりゅうにかんだんなし)」というのですが、これは「絶え間ない修行の大切さ」を尊重している私の想いを伝えている禅語です。

 

今年の初釜も、こんな私の思いを理解してくれている生徒たちが、決して無理をせず、できる限りの範囲で茶事を開き続けたい、という思いを込めて開く初釜なので、「おめでたい」とただ祝うだけではなく、“ 新年を寿ぐ気持ちをじっくりと全身で味わいたい ” と深く思いました。

 

そこで今年の掛物は「閑坐聴松風(かんざしてしょうふうをきく)」にしようと決めました。

 

この言葉は、私が稽古をはじめた頃に先生がよく掛けられていて、初めて先生の茶室をお借りして私が友人を招いて茶道のワークショップを開いたときも、掛かっていたのがこの言葉でした。

先生から、そのとき『ただ座って、茶釜の湯の沸く音、松風を聞く。という意味よ。』と教えられました。

釜の湯が沸くときに、釜の内底に取り付けられた「鳴鉄(なりがね)」という薄い鉄片が、釜の煮えた時になる音を、松林を吹き抜ける音に似ているとして「松風(しょうふう)」といわれます。

静かな茶室で鳴る松風が耳に聞こえてくると、本当に松林を吹き抜ける風がイメージできます。

『閑坐聴松風』。この言葉が好きで、瑞峯院 前田昌道老師の書かれた一行を持っているのですが、数年前 縁があり「表千家 十三代 即中斎筆、十四代 而妙斎が箱書き」の一行物を入手したので、この掛物をお披露目することにしました。

青竹に「結ぎ柳」で新年を寿ぎます。紅白の梅と、椿は「天ヶ下」。

  

これを機に、この言葉を改めて調べてみると、先生にお聞きして 私が想像していたよりもずっと深い意味があることに気づきました。

 

  『林間松韻 石上泉声

   静裡聴来 識天地自然鳴佩』

松風の音を通して「天地の鳴佩」、宇宙の大生命の息吹を聞き

それを合一する堺に 遊ぶこと。

「単に肉の耳で聞くにとどめず、心の耳で聽き、肝でよく味わって しみじみと聴く。」

  

このコロナ禍、色々な情報が飛び交い、何が正しいのか、どうすれば良いのか、分からなくなってしまうことがあります。

 この言葉の意味を深くかみしめ、「こんなときだからこそ、情報に左右させられることなく、皆で一緒に静かな気持ちで今を乗り切りましょう」という、私からのメッセージを込めました。

 

さて、ではお客様が家に入ってすぐの玄関には何を掛けましょう?

茶道の世界では2月は「春」。今年は 寅年ですから、同じ干支に書かれた短冊がないかと探してみると… ありました!

24年前の「戌寅」に尋牛斎がかかれた短冊、

 『幽鳥報賀音(ゆうちょうがいんをほうず)』。

 「静かな山奥深く住む鳥が、めでたい知らせを報ず(運んでくる)。」

「梅梢舒瑞気(ばいしょうずいきをのべる)」という大燈国師語録の対句です。

 

では、寄付は思いきりおめでたい掛物を…と、『瑞色』と銘じられた掛物に決めます。

丸山慶祥が描いた可愛らしい紅梅人形図に、即中斎が「献春」と画賛した実に華やかな掛物です。

寄付で床の間を拝見する社中の姿。

 

今までの初釜は、広間や小間の演出をし、「前茶(先にメインである濃茶をいただき、その後に茶懐石をゆっくりいただく)」で開いていましたが、

今年はなるべく密にならず、サラサラと時間をかけないようにしようと思い、朝茶と同じ「続き薄茶」のスタイルで開催することに決めました。

終始広間での開催ですので、お客様のディスタンスも確保できます。

本席の様子。

では、広間での炭点前になるので、広間で最も改まったときに使用する炭斗である「炭台」に。

羽箒は「黒鷲」。今まで広間で飾っていた「フリフリ香合」も実際に使用し、お披露目することができます!

「ぶりぶり香合」お爺さんとお婆さんが箒と熊手を持ったおめでたい意匠です。

棚は、「紹鴎棚」。利休の師匠、武野紹鴎が好んだ棚と言われています。

利休以前の茶の湯の世界が垣間見られる華やかな大棚です。

「紹鴎棚」右の襖を開けると水指が入っています。

広間での炭点前。
炭がおき、湯の沸く間に「懐石」をいただきます。
今年の干支「寅」の香合。榊原勇一作。今回は床の間に飾りました。

主菓子は、表千家大道の「常盤饅頭(ときわまんじゅう)」。

広間で濃茶。一人一椀に点てます。
濃茶を点てる亭主。

茶杓は 尋牛斎が嵯峨の竹を持って作られた「松風」。

せっかくですので、お濃茶をいただく主茶碗と、お薄用の茶碗を変えましょう。

広間での初釜風景

 

今回は初お披露目のお道具が九品ほどありました。

短冊、掛物、羽箒、紹鴎棚、唐銅の捻梅水指と、香合。

茶器の「高台寺蒔絵」、川端近左作、宗完宗匠の花押があります。

蓋置も千家十職の一人「永楽善五郎」作、「二彩」。目が覚めるよう美しいトルコブルー。

薄茶碗の「乾山写、老松」、杣山焼 です。

社中と作った茶懐石の献立も記しておきましょう。

緑色の利休梅のお皿の上に

・お赤飯

・鯛塩焼き

・海老芋揚げ

・鮭昆布巻き

・菜の花と松の実の白和え

・蓬麩

・黒豆の松葉刺し

・慈姑

・沢庵、柴漬

同じ小皿に、平目の菜種まぶし

器が小さいのが 残念です。両細(杉の箸)も揃っていない写真です。笑

茶懐石のメインである煮物椀は、蓮入海老真薯。

蓮を砕いたものと擦ったのを和歌山雑賀崎の海老と合わせた煮物椀。

小吸物は、自家製の日本酒漬け梅と、香せん(道明寺粉)あられ。

そして、八寸は、蒸し鮑と蕗の味噌漬け。

「八寸」。鮑を蒸すことも試作に苦辛しましたが、ウラジロの入手にも苦労しました。

漬物以外は 全て自分たちで作り、なかなか手前味噌で言い難いのですが…

本当に、美味しくできました!

レシピも書いておきたいところですが、これ以上長くなってしまうと いつまで経ってもアップできないので諦めます(笑)。

今回、「続き薄茶」のスタイルにして、大正解!

11時席入り、密にならず長時間にならず、でも華やかに。正月らしく書初めもして 16時にはお開きとなりました。

今年の初釜では、前日に突然高熱がでた方、同じく子供さんに高熱が出て…と 正に「今どき」らしいアクシデントがありました。幸い二人とも何ごともなく後日復帰しました。

「こうして毎年同じことを繰り返せるということ自体が、実は 奇跡なのだ」ということにあらためて、気付かされました。

茶事を開くための準備の大切さや大変さもいつか、書かねばなりませんね。今回は写真だけに。

毎回茶事の前には、大変な準備があります。
約一ヶ月、毎週、試作を繰り返します。

  

このブログを書いている間に、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの侵攻。

この信じられない事態にショックを受けましたが、報道を知った直後の「能」の発表会では「平和」への祈りを込めて一心に務めました。

文化の無力は感じたくない。

「文化」は平和の象徴。

毎日を丁寧に、大切に過ごしていきたいと思います。